poco a poco.

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地面 

広い遊歩道に植えられたポプラの木の下。
毎日前を通っていたけど、ここにあるベンチに目が留まったのは今日がはじめてだった。

コンビニ、つまりコンビニエンスストアで買った肉まんと唐揚げとホットコーヒーを食べたくて、ベンチに近づくと先客があった。

最初のベンチには毛布を何重にも巻いた人が段ボールの敷き布団と掛け布団を寝てて、
次のベンチの住人は寝袋に入り、デイバッグを枕にして寝ている。
どちらも顔が隠れているから性別・年齢不詳。
間近でホームレスを見るのははじめてだった。
天気予報で最高気温は7度とかって言ってた。結構寒いよな。
もっと段ボールを拾ってくりゃいいのにとか、駅とかで寝た方が雨が降っても平気なのにとか。
そんなことを考えはじめている自分に、俺がいちばんびっくりした。

3つ目のベンチにはサラリーマン風のおじさんが座っていて、
既に読み終わった新聞と缶コーヒーが傍らに置いてあった。
腕組みをして目を閉じている。寝てんのか考え事をしてんのか分からない。


RIMG0257.jpg



突然の不況と失業。
毎日ニュースで流れていることが俺自身にも起きたけど、
経済評論家とか労働組合の理事長とか、
どうやったらなれる職業なのかよくわかんない人たちが、
深刻そうに話すほどには当の本人は痛く感じてない。


でもな、路上生活はきついよな。
きつくってもそうせざる負えなくって、あの人たちはここにいるんだろうけど、、
ああダメだ、俺ってそういうこと考える脳みそがないんだよな。
段ボールとか駅とか、考えられるのはそれくらいだもん。

7月にワンルームマンションを追い出されて、
付き合い始めたばかりの彼女の部屋に転がり込んで、
借金のことを含めて全部おかんにばれて、夏の終わりくらいから小さい鉄工所で働くようになった。
本当は、短期バイトにしようかって思ってたんだけど、
彼女にこれはどう?ってフリーペーパーに載ってる広告を見せられて、
考えてもなかった仕事だし、面接だけでも受けてみるかって感じだった。

車とか電化製品の金型を作っているところで、
工作機を操作したり、ちょっとした設計みたいなのをやったり、意外と面白いかった。
昼は社長の奥さんの手作り弁当だし、笑っていいとも!とか見ながらみんなで食べて、
和気藹々っつーのかな、そういう感じのところだった。

12月に入ってすぐ。まだ試用期間だった俺が一番だった。

本当に悪いね、申し訳ないね。
60過ぎたおじさんに作業帽を脱いで深々と頭を下げられて、ホント俺、もう少しで泣きそうだった。
俺、もともと向いてなかったんだってそのときに思った。
どうせ契約社員だったし、こっちだって当面の資金が欲しかっただけだし。
なのに、向こう側はあんなに重いんだなって。

確かに居心地はよかったけど、あんな風に重いものをしょって働くつもりもなかった。

年末の最終日に同じ現場で働いていた人たちが、小さい送別会を開いてくれて、
俺は正直にそう言った。
怒られるかなあって思っていたら、そんなもんだと言われた。

男は嫁さんもらうまではそれでいいんだ。

バツイチで酒とパチンコに給料のほとんどをつぎ込んでるおっちゃんの言うことに説得力はなかったけど、
頭を下げられたときに感じた、あの変な罪悪感は消すことはできた。


仕事が決まったときにおふくろに電話をしてから、彼女とおふくろが妙に仲良くなっちゃって、
言ったら筒抜けだよなあ。なんて、気にしているうちに彼女に言いそびれた。
調子に乗って年末は温泉に行こうなんて言ってたから、
予約もしていたし、彼女も上機嫌だったから温泉地の旅館とか泊まってしまった。

余裕と思っていた貯金もあっというまに桁が減って、やばいやばいって思っているうちに年明け。


それで今日なんだけど、初出勤とか言って彼女の家を出てきてしまった。
ハローワークにでも行くかって入り口まで行ったけど、すっごい人でびびった。
やっぱ、重い。こんなに重くないんだ、俺。

生活掛かっているようで掛かってないし、
これといってやりたいことがあるわけじゃない。
なんとなく憧れていた設計も、一度やってみたらそうでもないかなって思った。
基本中の基本を覚えたところでクビになったし、
面白さなんて感じる間もなかったんだけど。

俺って怠け者なのかな。
ハローワークに行って、列に並んで次の仕事を探す。
仕事をなくした人がみんなやってることが、重いなんて、やっぱ甘えてるよな。


冷めかけた肉まんと唐揚げを食べてしまったら、本当にやることがなくなって、
じわじわ寒くなってきてるわけだけど彼女の家に帰る気にもならない。
そうやって何も考えずにいたら、いつのまにか俺は地面をじっと見ている人になってた。
赤茶色い煉瓦がきっちり埋められた地面。
これって地面なんだろうか、土とか石ころのある地面を最後に歩いたのはいつだったっけな。

どうして嘘をついて家を出たりしたんだろう。
俺はクビになったことなんて、どうってことないって今まで思っていたけど、
本当は結構落ち込んでるのかもしれない。
お昼の手作り弁当、笑っていいとも、煙草休憩のときの雑談、鉄の種類、機械や工具の名前。
年齢も出身地も経歴も違う男の人たちと一緒に働いていたことが、今となっては嘘のように感じる。

我慢できないくらい寒くなってきたと思ったら、雪がちらつきはじめた。
図書館にでも行こうと歩き始めたら、あのサラリーマン風のおじさんはもういなくて、
段ボールと寝袋の人は、さっきとまったく同じ様子だった。


つづく

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[ 2009/01/07 20:08 ] story | TB(0) | CM(6)
まったく状況は違うし、まったく不適切とも思われる感想なんですけど、
どこにも行き場がないような、宙ぶらりんな、
からからで、寒々しい、そのような、
この人の心の動きが心地よく感じてしまうんです。

ベンチは良いなあ、とかね。

つづきが楽しみ。

[ 2009/01/08 13:39 ] はる [ 編集 ]
前に出てきた男の人かな?
コンビニ、つまりコンビニエンスストアって前も言ってたよね?この台詞、いいね!
rorieさんの書くこの男の人、ダメっぽいけどほっとけない、計算してないのに母性本能に訴えるタイプだね。
こういう男が、一番危ないんだよ!ははは。
[ 2009/01/09 02:12 ] まゆみ [ 編集 ]
はるちゃん、ぜんぜん不適切なんかじゃないよ~
彼にはとことんふらふらしてもらおうかな。ふふふ。

続きをぼんやり考えてるのが楽しかったりします。
[ 2009/01/09 09:16 ] rorie [ 編集 ]
まゆみさん、そうなんですよ、あの子なんですよ。
同じ調子で書こうとするとむずかしいんですよね、、
ま、細かいところはいっか。なんつて。

>こういう男が、一番危ないんだよ!ははは。

そうなんですよね~、はははは。

[ 2009/01/09 09:18 ] rorie [ 編集 ]
地面を見る感じ
そういうの 実感として書けるって言うのがすごい。
こういう男が危ない・・・
たしかに。
でこう言う人は 東アジア系の首が細くて その下を向いている時にうなじが なんとなくそそる タイプ。
実は うなじフェチです。
スペイン人って 首しっかりしているから こういうベンチ男は いないような気がする。 酔っぱらいはいるけど。 仰向けになって寝てる。
[ 2009/01/13 04:44 ] cazorla [ 編集 ]
cazorlaさん、お久しぶりです。お元気ですか。
うなじフェチなんですか、
東アジア男性のうなじ。たしかにあそこは無防備ですね、無意識のうちに見ているような気がします。

酔っ払ってうなだれた様子には、セクシーさ感じませんねー。
先日、まだ7時台だというのに線路内に立ち入っている酔っぱらいがいるとかで、しばらく電車が止まったことがあります。

そこで99%おっちゃんだと思っている自分がいて、もしかしたら若い女の子かもしれないのに、思い込みってこわいなって思いました。


[ 2009/01/13 20:39 ] rorie [ 編集 ]
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